雌のウサギが5歳時では80%ほど子宮疾患(もしくは子宮癌)を患う、という記述はよく見かけます。
そんなにも確率が高いのだったら、やはり避妊手術をしなくては、と思う方もいるでしょうし、一方で、万が一手術で死亡した場合を考えると怖くてどうしても踏み切れない、という方も多いと思います。あるいは、「5歳で80%って本当なの?」と思う方も多いでしょう。
私自身、この問題では随分長い間迷って参りました。
4歳時に雌のプチを避妊するまで、ずっと考え続けていた、といっても過言ではありません。
そもそも、「5歳で80%」の出典が長い間わからず、この数値に疑問を抱いていた、ということもあります。
結局プチは、まだ3ヶ月にも満たない自分の子供と交配してしまい、急遽中絶手術をすることになりましたが、予後がよくなく1ヶ月後に5時間の大手術をすることになりました。
幸い助かりましたが、設備の整った大学病院でなければ、助けられなかったと思います。
もし助けられなければ……私は、ろし太、プチと、大切な子を二度も去勢/避妊手術が原因で失っていたかもしれません。
私自身が、「去勢手術でウサギを死なせてしまった」例の一人であったにも関わらず(そして、もしかしたら2匹も失ってしまう稀な例になってしまった可能性もあったにも関わらず)このGarden of Ethelでは、私はどちらかといえば去勢/避妊を勧める立場をとってきました。
それは、特に多頭飼いの雌雄ペアにおいて、去勢/避妊をしないことがウサギ達にどれだけストレスを与えるか、また去勢/避妊されたペアがどれだけ幸せそうに暮らしているかをこの目で見てきたからですが、一方で、我々が経験した、去勢/避妊手術によってウサギを失うという地獄のような苦しみについては、ペットロスの項目に呟きを残すにとどめ、あまり触れてきませんでした。
そのペットロスの呟きでさえ、当時つとめて冷静であろうとした軌跡が残っています。
しかし、その姿勢について考え直すきっかけが、最近ありました。
「愛するうさぎを死なせないために」というタイトルのホームページの管理者様と、メールをやり取りする機会があったのです。
(ちなみに上記ページは旧ページからプロバイダ移転したもので、子宮疾患の統計についての部分は書き直される予定とのことです)。
メールで色々お話するうちに、大切なラパンちゃんを避妊手術で失った管理者様の悲しみや無念さ、どうしても抑えきれない獣医や現在のウサギの医療そのものへの不信感など、私にも、ろし太を失った当時、たしかにあった感情を思い出しました。
そして、そういう辛さ、悲しさを伝えることにこそ、このホームページの意義がある、と仰る管理者様の姿勢に深く共感しました。
手術の危険をきちんと説明しない医師は勿論問題ですが、たとえ説明したとして、医師ができるのは精々確率論の話までです。それ以上突っ込んで言及する事は、立場上出来ないでしょう。
しかし、飼い主にとっては、決して確率論で済まされるものではありません。
もし去勢/避妊手術を選ぶことになれば、飼い主は、その確率論ではすまない感情を犠牲にして、確率論を選ぶことになるわけです。
そして、多くの場合、飼い主は、実際に事が起こるまで、自分が犠牲にした感情の重みがどれほど堪え難いものであるか、気づかないのです。
ならば、もし「万が一」の事態がおきてしまった時に、どういう嵐が待ち受けているのか、それもきちんと情報として提供しなければ、飼い主にとって本当に正しい選択は出来ないのではないか、と思うようになりました。
それがあって初めて、「去勢、避妊手術の失敗率は0.5%」としか言えない獣医に質問を差し挟むことも出来ますし、麻酔の方法や種類など色々と突っ込んだことを聞く事も出来ます。
ウサギの医療では飼い主が獣医を育てることもままありますが、そういったことの積み重ねが、ウサギにとってより安全な手術への発展を促すとも思います。
そういうわけで、これから、ウサギの子宮疾患の確率についての考察と、去勢/避妊手術のメリット、デメリットについて、私が体験したこと、調べた範囲をシリーズで投稿しようと思います。
補完しなくてはならない情報もありますし、これにばかり時間を割いていられないので、かなりゆっくりとした投稿ペースになるでしょうが、このシリーズの続きは毎回同じタイトルで始めることにします。
冒頭で述べたウサギの子宮疾患の確率(5歳で80%)については、既にこちらの記事で出典の紹介及びその考察をしました。
その後、そのものズバリの研究というわけではありませんが、もっと新しい研究の論文を見つけましたので、子宮疾患の統計に関する部分だけ、まずは次のエントリーで紹介しようと思います。
そして、いずれは、避妊/去勢手術でウサギをなくしてしまった方、あるいは、避妊/去勢手術をしなかったために、癌に犯されてウサギをなくしてしまった方などの事例を、出来る限り紹介しようと思います(勿論、リンク先の管理者様の許可がとれれば、ですが……)。
うちのろし太の医療記録や最後の写真も、長い間見返すことが出来ずお蔵入りでしたが、これを機会にきちんと整理して公表しようと思います。
同じような経験をされた方がもしいらっしゃいましたら、事例をご紹介いただければ幸いです。
この度はリンクと素敵な記事へのご紹介有難うございました。
内容の薄い拙いH.Pとブログですがこれからもよろしくお願いします。
実際には沢山の麻酔事故が起きているのに、何故ネット上には失敗例が出てこないのかが不思議でなりません。
もぐらさんが代弁してくださった様に、99.5%の成功がもたらすメリットの情報と同じように、0.5%の地獄の情報も知っていなければ正しい選択とはいえないと思うのです。
ラパンパパさま、こんにちは!
この度は色々とありがとうございました!
>実際には沢山の麻酔事故が起きているのに、何故ネット上には失敗例が出てこないのかが不思議でなりません。
私には、少し分かるような気もします……。
この問題には、明らかに医師の説明不足と言える場合と、そうとは言い切れない場合もあると思うのです。
たとえば、麻酔事故の割合は0.5%程度です、というひとことを伝えられていたら、(それが飼い主に熟考を促すような語調でなかったとしても)まったく説明義務を果たしていないとも言えません。
飼い主というのは、事が起これば自分の選択、自分の不勉強を責めるものだと思います。
それゆえに、その辛さを直視したくない、ということもあると思います。
私も、暫くは、ろし太の写真すら見ることが出来ませんでした。
それを、敢えてweb上で告白する事は、人によってはとても辛いことでしょうし、そうしなければならない義務も勿論ないですから……。
しかし、それと同じくらい、他の人に自分と同じ思いをして欲しくない、という気持ちも、皆さんお持ちだと思います。
どちらが良いというわけではなくて、それぞれの人のスタンスだと思いますが、(私がラパンパパ様に触発されたように)私達が事例を紹介することで、そうしてみよう、という気になってくださる方がいれば、ウサギコミュニティにとって決してマイナスにはならないと思います。
こんばんは!
度々でごめんなさい。
私はこの99.5%という数値が漠然と一人歩きしてしまっている事を危惧しています。
もぐらさんも仰っているように、年齢が上がればこの数値も多少落ちるでしょうし。
少なくても現状の日本ではこの数値までは達していないのではないか?と私は思っています。
重要なのは一般的にいわれる99.5%という数値ではなく、今、目の前にいる主治医が持つ数値なのですよね?そんな事当たり前だろう、っていわれるかもしれませんが、一般的にいわれている99.5%という数値が安心感を与えてしまっているのも確かだと思うのです。
うちの子を亡くしてからセカンドオピニオンの医師を訪ね、アジルの去勢手術について相談した時にはずばり、「失敗した例はございますか?」と聞きました。「ゼロです」という答えが返ってきましたが、「では、今までに何匹執刀なさっているのですか?」という問いには「かなりの数をやっていますよ、何十匹も」というものでした。
つまり、失敗例はゼロですが、「per cent」という考え方からすると非常に悩ましい回答な訳です。
大事なのは99.5%という数値に惑わされずに、より慎重に獣医選びをする事だと思います。そうすれば獣医に恵まれた地域では99.75%という医師も見つかります。事実、避妊手術では100%という医者もいますから。
ラパンパパさま、
>うちの子を亡くしてからセカンドオピニオンの医師を訪ね、アジルの去勢手術について相談した時にはずばり、「失敗した例はございますか?」と聞きました。「ゼロです」という答えが返ってきましたが、「では、今までに何匹執刀なさっているのですか?」という問いには「かなりの数をやっていますよ、何十匹も」というものでした。
つまり、失敗例はゼロですが、「per cent」という考え方からすると非常に悩ましい回答な訳です。
そうなんですよね……。
実は、統計の観点からしても、0.5%という数字を一人の獣医で検証するのは大変難しいんです。
1000匹手術したとしても、平均5匹死亡例がある、とかいう話ですから、たまたま10匹だったりたまたまゼロだったりというのは十分あり有り得る統計数です。まともな数値を得ようとしたら、最低でもその5倍くらいの統計(5000匹)となってしまい、そんなにウサギの避妊手術ばかりしているお医者様は、ほとんどいないでしょう。
確かに、この数字を持ち出す事自体が問題なのかもしれません。
この問題も、真面目に考える必要がありますね。