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Harry S. N. Greene “ADENOCARCINOMA OF THE UTERINE FUNDUS IN THE RABBIT”, Annals of the New York Academy of Sciences, (1959) 75, 535-542
1959年のGreeneの論文ですが、原文は残念ながら無料では見られません。
図書館に行って見るか、上のリンクからお金を払って入手するしかありません。
というわけで、この論文については詳細な内容解説は控えさせていただきますが、若干、皆様の興味のありそうな点についてお話します。
(ちなみに私は図書館でコピーを入手しました。)
さて、何故こんな古い論文を引っ張り出してきたか、というと、これがメスのウサギの子宮系疾患(具体的には腫瘍ですが)の割合が年齢とともに上がる、という通説のもととなっている論文だからです。
Greene氏は数十年にわたり合計849匹のウサギを調べ、そのうち16.7%のウサギに腫瘍が確認されたと報告しています。
ただし、この割合は年齢によって大きく変わり、2〜3歳では4.2%、一方5〜6歳では79.1%であった、と書かれています。
この一文が、よくある「ウサギの子宮がんの発生確率は 5才で80%」と言われる根拠になっていると思われます。
(ただし、この論文で取り上げているのはあくまで子宮に「腫瘍」ができた雌ウサギの数ですので、80%全てが癌というわけではありません)
2011/2/21 補足:
この論文の同部分を引用し、この確率が子宮腺癌(uterine adenocarcinoma)の確率である、と紹介している論文がありました(M. G. Asakawa, M. H. Goldschmidt, Y. Une and Y. Nomura Vet Pathol 2008 45: 217)。
私はこの1958年の論文、及びUTERINE ADENOMATA IN THE RABBITの記述に、「腫瘍」(Tumor)と書かれていること、また論文中でTumorとAdenocarcinomaを区別しているように見受けられたことから、この数値は「腫瘍」の数だと解釈しましたが、専門家の間では、こういった場合「腫瘍」は「悪性腫瘍」と見なすべき、いうことであるのかも知れません。あるいは、2008年の論文の著者が直接1958年の論文の著者に確認をとった可能性もありますし、「腫瘍」も12~24ヶ月後には癌になるケースが非常に多いことから、癌と同等と見なしたのかも知れません。
いずれにせよ、ここは専門家の意見を信じるべきでしょうから、80%がまるまる癌のケースの数値である、と見なしてもよいと思います。
ただ、気をつけなければならないのは、この数字をはじき出した統計数です。
実はGreene氏はこの他に3章からなる”UTERINE ADENOMATA IN THE RABBIT”という長編大作の論文を書いており、上記はこれらの研究をまとめたレビュー論文で、細かいことはこちらの長編大作の方に書いてあります。
こちらはフリーで読めますので、またいつか時間があったら紹介します。
で、そちらを見てみると、2〜3歳のウサギの全体数は491匹、うち腫瘍が見つかったのが21匹なので4.2%。この数字は信頼出来るのですが、5〜6歳については、もともとの数が24匹、うち腫瘍の見つかった数が19匹で79.1%という数字が出ているのです。
ちょっとややこしい統計の話になりますが、この79.1%という数字が本当に子宮腫瘍の発生確率の中央値を表していると仮に仮定すると、19匹というサンプル数では、+- ルート(19匹)で大体4匹程度の誤差が出ます。
つまり、全く同じ実験を何回も繰り返すと、子宮疾患がみとめられるウサギの数が、24匹中15匹だったり、23匹だったりするよ、ということです。
15匹だったら62.5%、23匹だったら95.8%ですね。
この程度の統計数だと、このくらいの幅は出てしまう、ということなのです。
しかも、79.1%が中央値だなんて保証は全くありませんから、もしかしたら、本当は90%ほどの発現確率がたまたま低く出て19匹になったのかもしれないし、逆に本当は60%程度のものがたまたま多めに出てしまったのかも知れないのです。
したがって、この79.1%という数字に関しては、小数点つける意味あるかな、というくらいには疑った方がよいかも知れません。
が、しかし、逆に、この研究からはっきりしていることもあります。
それは、24匹中19匹という数字は、たとえば本当の腫瘍発生確率が30%であった場合には殆ど絶対といっていいほど出て来ない数字だ、ということです。
つまり、逆に言うと、最低でも30%以上は子宮で腫瘍が見つかると推測して良い、ということになります。
実は30%というのは相当に低く見積もりすぎで、たとえ50%でも、母集団が24匹なら中央推定値は12匹です。
19匹というのは12匹から約2シグマ *離れていますので、100回同じ実験をしたら、5回くらいしか出ない数です。
つまり、50%でさえ、24匹中19匹という数字はかなりありそうにもない数で、それはすなわち、子宮疾患発生率を50%と見積もるのは結構無理がある、ということになります(50%でもまだ低く見積もりすぎ、という意味です)。
24匹中19匹という数字を用いて、1シグマ範囲で、もっとも楽観的な5〜6歳時のウサギの子宮疾患発生率を見積もると、大体62~3%といったところではないでしょうか。
勿論、逆に悲観的な予測も出来て、この場合だとほぼ100%です。
*シグマ、と書いているのは統計学で使われる標準偏差の意味です。
もうひとつ、この数字で気をつけなければならないのは、この論文が書かれた年代です。
なにしろ1959年の論文ですから、当時のウサギのペレットはどんどん太らせて肉にするためのペレットであったと思われます。
よりウサギの健康を考えたペレットが普及している現在では、この論文が書かれた頃より多少、子宮疾患発症の確率も落ちているかもしれません。
できれば、現在のチモシー主体のペレットで育てられたペットウサギの統計が欲しいところですが、残念ながら、査読付きの論文でこのような研究をしたものはその後これといってないようです(私が知らないだけかも知れません。ご存知の方はご一報を!)。
というわけで、私自身の感触としては、メスウサギは年をとれば少なく見積もっても50%くらい、つまり2匹に1匹は子宮系疾患を煩うかもしれない、というあたりかな、と考えています。
(50%にした根拠が特にあるわけではありません)
獣医さんによっては30%という方もいるようですが、これは子宮癌のみの割合であるかも知れません。
癌でなくても、卵巣、子宮系疾患になれば、結局完治のためには手術することになりますので、癌の可能性だけを考えてもあまり意味はないかと思います。
(放っておけばそのうち癌になるかも知れませんし……)
残り50%に賭けて避妊手術をしない、という選択もあります。
ただ、その場合、考えておかなければならないのは、万が一5歳以降に子宮摘出手術が必要になった場合、術後の回復力が、1歳未満のウサギと5歳のウサギとではかなり違う、ということです。
実際に、うちで世話をしたメス5匹のうち、4歳で手術した2匹は回復に時間がかかり(うち1匹は予後がよくなく結局1ヶ月後に再手術)、6ヶ月で手術した3匹は術後3日目には普通に飛び跳ねていました。
ウサギに慣れた獣医に手術してもらえば、避妊手術で亡くなる可能性は0.5%以下、という数字をよく見ますが、これは母集団のかなりの割合が通常去勢/避妊手術をする1歳前後、という事情も反映している、とみるべきかと思います。
Greene氏の研究のように、年齢別で統計をとれば、高い年齢では手術が原因の死亡の割合が若年のグループに比べかなり増えるのではないか、と私は思います。
12/9 補足:
犬の例ですが、高齢の子、疾患がある子の手術による死亡は、若く健康な子の死亡確率よりも高いと思われる、と書いておられる獣医師さんがいました。
こちらの記事の「追加説明」<健康な子の麻酔>の項目をご覧下さい。
HRSでは、それなりに年をとっている子も若い子も避妊手術をします。
アメリカの経済が落ち込んで以来、飼育放棄するブリーダーや破綻したシェルターなどが頻出し、去年、今年と十匹単位で一度にウサギが持ち込まれる、という事態が合計4回ありました。
このとき、大抵のウサギは年齢も分からないのですが、避妊手術をすると大体の年齢が分かる、とWHRSの代表者が言っていました。
つまり、腫瘍がほとんどなければ大体2歳までのコロニー、腫瘍が多くみられればそれ以上、更に、腫瘍が癌にまで発展して他の臓器にまで移転しているようなら高齢、といった感じです。
無論偏見と言われればそれまでですが、実際彼等はウサギの行動からも大体の年齢を推測していますので、あながち偏見でもないと私は思います。
参考までに、”UTERINE ADENOMATA IN THE RABBIT”へのリンクを張っておきます。
- I. CLINICAL HISTORY, PATHOLOGY AND PRELIMINARY TRANSPLANTATION EXPERIMENTS
- II. HOMOLOGOUS TRANSPLANTATION EXPERIMENTS
- III. SUSCEPTIBILITY AS A FUNCTION OF CONSTITUTIONAL FACTORS