最近、えせるはどうも気が立っている。
ミニうさぎのえせるは、三羽の中でも一番体が大きく、力も強い。それでも、普段はそれなりに穏やかな性格なのだが、時折、凶暴とも見えるフラストレーションを溜めることがある。(それでも、高さ×幅60センチの八枚パネルの運動用柵を鼻で押し上げる程度で、最初のように噛み付く事は絶対になくなったのだから、可愛いものだ。昔噛み付いていたのはやはり恐怖の所為だったらしい)
それがまあ、暫く十分ケージの外で遊ばせてやっていないとか、ちょっと他の二羽に注意が行き過ぎていたとか、理由がある事なら難しくはないのだけれど、必ずしもそうとは言い切れないケースが多い。
この時期、外で跳ね回っている野生のウサギは、子供を作るのに大忙しだろう。雌なら新しい穴のひとつも掘るのだろうから、体力が発散し切れずに鬱憤が溜まっている、というのは考えられる。
えせるは避妊手術をしているので、体の都合と遺伝子が覚えている本能との齟齬が生じているのかも知れない。
残念ながら、たとえそうであったとしても、既に手術してしまったものはどうにもならないわけで、あとはどうすればこの鬱憤が晴らせるのか、という問題になる。
去年までだったら、人も滅多に通らない中庭にこれ幸いと放して十分遊ばせてやる事を考えただろうけれど、今年晴天の霹靂だったロスのエンセファリトゾーンの事もあって、ちょっと躊躇せざるを得ない。野生のウサギのトラックを喜んで辿っていたであろうロスが、そこで寄生虫を貰って帰って来た可能性は非常に高いからだ(もっとも、ケージの外ではトイレを共用していた三羽のこと、あと残るえせるとプチがE-cuniculiに陰性だとは正直思っていないが)。
おまけに生憎外気温は寒波襲来で2℃、体感温度は寒風のため零度を切る。流石に家でぬくぬくと育てられたウサギをいきなり放り出せる気候とは言い難い。
そんな折、忙しさに紛れて読むの忘れていた月間全生に目を通して、はっとした。
3月号の全生、野口晴哉さんの記事は「子供の操法3」というタイトルになっていて、頭の動きがどう心や体の動きに関連しているか、という事に焦点を置いていた。頭の動き、というのは、何を考えているか、とかいうことではなくて、本当に文字通り頭蓋骨が動く、という話。頭蓋骨は一枚板ならぬ一枚骨ではないから、よく注意して見ていると形が変わる、という。わざわざ「子供の」と銘打っているのは、子供の場合骨の動きと行動や感情は素直に繋がる、ということで、大人は知恵がついて頭蓋骨だけではなく皮膚の状態や骨と皮膚の間にある脂なんかで調節してるから難しいのだ、とのこと。
であれば、子供より更に原始的な感情を持っているウサギは、おそらくより素直に頭蓋の形が行動に表れるのではないか。頭蓋骨の形が変わる事など、とうの昔から知っていたはずなのに、慌てて改めて彼等の頭を見直してみると、えせるは額の天辺(人間で言えば頭の頂点)だけが尖り、額の面積は萎縮しているように見える。大病をして体の大掃除をしたのか、若い頃のように干し草を食べ立派な糞をしているロスは、若い頃のように顔が長くなっている。プチだけが、何一つ変わらず、ひたすら干草を食べていて、妙にきらきらと輝いた瞳をしている。一週間前くらいから感じていた違和感なのに、全生を読んで初めて気付くとは、何とも迂闊。
もっとも、不勉強ゆえ、これらの変化が何を意味しているのか、よくわかってはいない(頭の頂点が尖るのは鬱憤を溜め込んでいる事の反映かも知れないが)。今の感じをよく覚えておいて、次回日本に戻って指導を受けた時に先生に訊いてみたら何か分かるかも知れないが……。ただ、経験上、尖っているのはともかく萎縮している感じがいい状態であった試しがないので、とりあえず、えせるの額には内から外へ広がってくるように愉気をしてみた。えせるがやたら外に出たがり、頭を撫でてくれとせがむのは、この不快感からであったからかも知れない。とすれば、癇癪を起こしたのは、そう一週間訴え続けたにも関わらず飼い主が気付かないので、吠えられないウサギの最後の手段に訴えたのだとも言える。
今、えせるはケージの外の絨毯で長々と寝そべり、両足を延ばして居眠りをしている。頭の形は、少し丸みを帯びて来た。先々週は気温26℃、湿度60%、今週は気温2℃、湿度45。人間だけでなく、ウサギもこの急激な気候変化についていけず、色々変調を来たしているらしい。
それでも、昨年までなら、季節の変わり目だから、と大雑把にしか捕らえていなかったが、三匹とも寄生虫を飼っている(おそらく)となれば、少しの変化にも敏感であらねばならない、と思う。お陰で、随分とよい勉強をさせてもらっている。