ウサギのエンセファリトゾーン血清有病率についての論文

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久々にE-Cuniculiの論文を検索したら、ペットウサギのエンセファリトゾーン血清有病率(集団の中でその疾患に対する検査が陽性の個体の割合)に関する論文が随分沢山でていました(…っても2008年のものとかあるので、とくに新しい話というわけではなくて、私が今迄知らなかっただけ。)
今時間がないのでちゃんと目を通していないですが、あとで読むためにリンクしておきます。

Igarashi, M. et al. High seroprevalence of Encephalitozoon cuniculi in pet rabbits in Japan. J. Vet. Med. Sci. 70, 1301–1304 (2008).

日本のペットラビット337匹の血清有病率の調査。337匹はグループ1(全部健康なウサギ)74匹、グループ2(健康かつ多頭飼いのウサギ)121匹、グループ3(神経症状を見せているウサギ)105匹、グループ4(そのほかの病気のウサギ)37匹にわけて調査。
血清有病率がもっとも高かったのは81%(グループ3)、次は75.2%(グループ2)、3番目が43.2%(グループ4)、そして最も低かったのが29.7%(グループ1)とのこと。

(グループ3(神経症状を見せたウサギの群)が高い血清有病率を示したのはもっともな話ですが、次が多頭飼いの健康ウサギの群であった、というのが興味をひく部分です。多頭飼いの場合、群の1匹でもエンセファリトゾーンに寄生されている場合、群全体が寄生されますので、こういう数値になってしまうわけですね。
うちのウサギ達も全てエンセファリトゾーン検査陽性です。まあ、持っていても全てが発症するわけではない、といえばそれまでの話なのですが。)

Shin J-C, Kim D-G, Kim S-H, Kim S, Song K-H. Seroprevalence of Encephalitozoon cuniculi in Pet Rabbits in Korea. The Korean Journal of Parasitology. 52(3):321-323 (2014)

韓国の(特に疾患をみせていない)ペットラビット186匹に対し、血清有病率を調査した論文。おおよそ22%、性別差、年齢差などはみられなかった、という話。

(この数字は日本の1頭飼いの健康ウサギのケースとあまり変わらないように思いますが、韓国では多頭飼いが少ないとかあるのかなあ?? それとも、ブリーダーできちんと駆虫ができているのかしら……)

Tee, K.-Y. et al. Serological survey for antibodies to Encephalitozoon cuniculi in rabbits in Taiwan. Vet. Parasitol. 183, 68–71 (2011).

同様の研究の台湾版。こちらは171匹中 63.2% (108/171) と67.8% (116/171) ということで、韓国より高い。サンプルのうち、155匹は健康なウサギで、健康診断に訪れたものを使用とのこと。サンプルは4カ所(の病院)から集められ、数値に有為な地域差がみられた。4ヶ月以上の大人ウサギは、それ以下の子ウサギよりも有為に血清有病率が高い。

Dipineto, L. et al. Serological Survey for Antibodies to Encephalitozoon cuniculi in Pet Rabbits in Italy. Zoonoses and Public Health 55, 173–175 (2008).

同様の研究イタリア版。125匹中、47匹が健康なウサギ、残りはエンセファリトゾーンが疑われる症状を見せていた。血清有病率は84/125 (67.2%)。4ヶ月以上の大人ウサギは、それ以下の子ウサギよりも有為に血清有病率が高い。


以上、4ヶ月未満のウサギで血清有病率が低い、というのはちょっと予想外でした。
というのは、エンセファリトゾーンは当然母子感染(…という言い方は正しくないかもしれないが、要するに離乳前に母親からエンセファリトゾーンの胞子をもらってしまうということ)するものだと思っていたので、大人ウサギと仔ウサギでそんなに差があるとは思っていませんでした。

とりあえず台湾の文献だけ入手してざっと眺めてみましたが、著者のDiscussionによれば(つまり著者の予想)、1)初乳の感染防御抗体が生後4週間まで持続すること、2)台湾では、生後4週間で仔ウサギが販売されるため、この期間内に両親から感染するリスクが低いと思われることから、仔ウサギの感染率が低い、と考えていることが見てとれます。

となると、その後感染率が高くなるのは、やはり多頭飼いや他のウサギとの接触で全頭感染するケースが多い、ということになるのでしょうか。
エンセファリトゾーンは空気感染はほぼしないと考えて良いレベルだと思いますが、オシッコには胞子が入るので、感染ウサギのオシッコがかかった牧草を食べる、共有トイレなどで他のウサギのオシッコのあとを舐める(ウサギは結構これをよくやります…要らないから捨ててるんじゃないの?と不思議になりますが)などでも感染します。

多少危惧するのは、この結果から、「だからウサギは生後1ヶ月以内に母ウサギから離した方がいいんだ!」という論調にもっていかれかねないことです。
ウサギが一生健康に生きていくためには、母ウサギからの母乳や盲腸糞はかかせないものです。母子感染を防ぐ為に仔ウサギを早く引き離すくらいなら、繁殖前にエンセファリトゾーンキャリアのウサギは投薬して治療する方が良いんじゃないか、と素人考えではありますが、思います。

実は、IgG値で陽性反応を示したウサギ(IgG値は過去に感染があったかを示す)が、現在も体内にエンセファリトゾーンがいるか、を調べる方法は、解剖以外にはない、という問題もあり、正直すぐにエンセファリトゾーン検査陰性のウサギだけを繁殖に使え、というのは難しい状況だと思います。
しかし、それでも投薬治療で駆虫ができているケースも沢山あるのですから、やらないよりは多分マシなんじゃないかと……。この場合の投薬の目的は、尿から胞子が出るほどエンセファリトゾーンを活性化させないこと、ですので。(うちのろし太も、投薬治療後、死後の剖検で脳内などにエンセファリトゾーンがいないことは確認されています)。

もっとも、感染の疑いのあるウサギとそうでないウサギを厳密に分けることが、多分一番の難点なんだろうと思いますが……。

エンセファリトゾーンにフェンベンダゾールが有効である論文が発表された2002年以降、一時エンセファリトゾーンはとにかく駆虫する、という雰囲気が強かった時代があったように思います。現在はどちらかというと、症状が出たら投薬する、といったスタンスのところが多いようです。私自身も、正直、そこまで目の敵にすべきものなのか、わからなくなってきました。

しかし、現実に発症したとして、すぐに治療が開始できれば良いですが、どうしてもすぐに投薬が開始出来なかった場合は、重度の障害が残ったり、脳の障害の程度が大きければ死ぬこともあるわけです…。

もともとエンセファリトゾーンがいる子は仕方がないとして、エンセファリトゾーンフリーのウサギを他のウサギから感染させない対策は、やっぱり必要なのではないか、とつらつら思う今日このごろです。

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