ウサギのハエウジ症:普通のハエ1匹でも危険!

アメリカに来て気づいたことに、ウサギのハエウジ症(ウサギの皮膚が蛆に侵される疾患)に対する危機意識の違いがあります。

こちらでは、イエバエ1匹が家の中に侵入しても、「すぐに退治しなさい!」とすごい剣幕なのです。

正直、ハエは刺さないし、そりゃウザいけど、そんなに目の敵にするほどか? なんて思ってましたが……

今回、ちょっと色々海外のリンクに目を通してみて、驚きの事実発見(汗)。

なんと、日本のウサギ飼育書は、ハエウジ症をちゃんと正しく記述していない!!!

というわけで、ハエウジ症の何が危険なのか、のまとめです。

(この件について、友人とその友人の獣医師MRさんにお世話になりました。この場を借りてお礼申し上げます。)

以下、ハエウジ症とハエについて書いています。写真はありませんが、文章で気分悪くなる方も多分いると思いますので、そういうのがダメな方はご注意下さい。

1)ハエウジ症は、二種類ある!

いきなり何なんだ、と獣医師の皆様には怒られてしまうかも知れませんが……
HRSのメーリングリストに目を通していて気づいたのですが、実は、アメリカでは、”Fly Strike”と、ウサギヒフバエによる寄生は別モノ、と考えられている模様なのです。

アメリカでは、ハエウジ症について、”Fly Strike”という言葉を使うことがあります。
これは、”Strike”という単語が混じっていることからも分かるように、発作のような急性症状をみせることを指します。

ところが、ウサギのハエウジ症でかならず引き合いに出される「ウサギヒフバエ」による寄生の場合は、一般にそこまでの急性症状を示しません。

ウサギヒフバエは、ヒツジバエ科という、動物に寄生する種類のハエです。
ヒツジバエ科のハエは、動物の正常な組織を食ってしまいます。
そう言うとかなり危険な感じですが、「寄生」するのですから、基本的には宿主をすぐに殺すようなことはしないのです。
(勿論、ハエですから病原菌は持っているので、寄生箇所から感染して重篤になったとか、うまく定住場所をみつけられずに迷走して脳に侵入するとか、そういう二次的な原因で宿主が死ぬことはあるので、放っておいてよいわけでは決してありませんが。)

それでは、何が一体”Fly Strike”をひきおこすのか?

2)危険なのは「ヒツジバエ」だけではない

Medirabbit.comの記述によれば、”Fly Strike”を引き起こすハエの種類は以下の通りです。

blowflies Lucilia sericataCalliphora sp., the grey flesh fly Wohlfahrtia sp., the common screwworm fly Callitroga sp., and from the botfly Cuterebra sp, which is seen in the USA only.

前から順番に翻訳すると:

ヒロズキンバエ(クロバエ属の一種)、クロバエ、灰色ニクバエ(モンゴルのハエで目の中にウジを直接産みつける)、キンバエ、ヒツジバエ(アメリカのみで見られる)

これをみると、所謂「生きた肉を食らう」ハエは、モンゴルの灰色ニクバエと、ヒツジバエの仲間のみ。そして、これらは日本ではあまり一般に見るハエではありませんし、居てもハエというより、どちらかというとハチのような姿をしているので、警戒して追い払う人が殆どだと思います。

それ以外は、私達に馴染みの深いハエ、いわゆる「動物の死体、ふん」などを食べる種類です。そして、これらのハエが腐敗した組織のみを食べることを利用して、「マゴットセラピー」と呼ばれる治療方法さえ存在します。

3)本当に怖いのは細菌感染(敗血症)やアナフィラキシーショック

ヒツジバエ科の寄生は、こちらでは警戒はされても、それほど恐れられてはいません。見つけたら、早めに病院に連れていって処置してもらいましょう、で終わりです。

しかし、Fly Strikeの方は、下手をすると一刻を争います。こちらで散々「ハエの侵入を許すな!」と言われるのは、まさにこの”Fly Strike”が怖いから。そして恐れているハエは、「ヒツジバエ」の仲間ではなく、もっと身近にいるクロバエ、キンバエの仲間です
(余談ですが、「キンバエ」といっても金色ではありません。むしろ青緑や黄緑の金属色をしているものが多い。英語では、green bottle flyです。)

これらの仲間は、動物の腐敗した組織、糞尿にたかるのですから、健康なウサギには通常たかりません。年をとったり、怪我をして弱ったりして、何らかの理由でオシリや傷口をきれいに出来ないウサギが狙われます。

ウサギの皮膚は、普段毛皮に覆われて保護されているため、人間の皮膚よりもずっと弱く、汚れたままにしておくと簡単に炎症を起こします。
やわらかいウンチがいつもお尻にこびりついている、結石などで尿もれを起こして、いつもお尻が濡れている、歯や目に問題があり、いつもよだれで顔や顎が濡れている、といったところが危険です。
そうして一度炎症を起こして、膿がでてくると、キンバエなどがやってきて卵を産みつけます。

幼虫は約1日でふ化し、壊死した組織を食べながら皮下に潜ります。このとき、寄生された宿主は、痒みや痛み、不快感を感じます。そこで、傷口を掻きむしったり、体重をかけて床などにこすりつけたりします。すると、体内で幼虫がつぶれ、その幼虫の体液でアナフィラキシーショックを起こす、といった具合です。(体内で死ぬ幼虫もあり、そういったものもアナフィラキシーショックの原因になる)

幼虫の体液でアナフィラキシーショックを起こさなくとも、腐肉や排泄物にたかる種類のハエは細菌の温床です。そういった菌に侵された幼虫が体組織に潜り込み、血液中に病原菌が混入すれば、敗血症になり、ショックで死んでしまいます。
勿論、敗血症まで至らなくとも、傷の部分が感染症を起こせばウサギの体力を著しく奪ってしまいます。
(マゴットセラピーに使うハエの幼虫は、無菌状態で育てられていますので感染の危険はありません)

というわけで、もし皮膚の中に幼虫を見つけてしまっても、絶対に焦ってほじくり出そうとしてはダメです。間違って幼虫を潰せば大変危険です。必ず獣医師に相談して下さい。
また、ハエウジ症のウサギはいつショック死してもおかしくありませんので、見つけ次第救急で処置してもらう必要があります

またこのような事情から、外飼いのウサギは、常にハエウジ症の危険に晒されています。
ウサギは屋外で飼うものではない、とHRSでは強く啓蒙していますが、今現在外飼いのウサギがいる場合は、とにかくウサギ小屋の中にハエが入らないような対策を行う必要があります。

ハエウジ症は、毛をかき分けて良く見ないとウジに侵されていることが解らないケースも多いことから、蠅除け対策が出来ていない学校ウサギやふれあい動物園のウサギなどで、老衰で死んだと思われているウサギの中には、実際にはハエウジ症で苦しみながら死んだウサギも多いのではないかと危惧しています。

※ 余談ですが、、
キンバエ、クロバエ科のハエが、糞尿で汚れた部分や壊死した体組織だけでなく、正常な皮膚を食い進む、という記述や、幼虫がToxicな成分を出しそれがショックの原因になる、という記述をたまに見かけます。ただこれらの文章は、獣医師以外が書いたものばかりでして、ネットで検索した範囲では獣医師の名前入りの文章でそれを明記したものは見つけられませんでした。(専門書を見れば書いてあるのでしょうが、専門家ではないので…)
というわけで、とりあえず間違いなさそうな危険だけ記しましたが、もしかしたら、健康な組織にまで食い込む種類のハエもいるのかもしれません。

いずれにしても、病原菌をもつものが体内に潜り込めば感染症を引き起こすのは事実ですし、ターゲットになるのは大体が弱った個体ですので、それでショック死というのは十分に有り得る話です。「マゴットセラピー」はあくまで無菌の幼虫を使うから可能なのであって、「腐った組織しか食わないから大丈夫」と軽視するのは禁物だと思います。

3)治療法

獣医師の方の治療法は、おおむね以下の通りだと思います。

1)寄生されている部位を洗浄、穴が小さいようなら多少切開して穴を広げる

2)ピンセットで幼虫を潰さないように慎重に全部取り出す

3)傷口をよく洗浄し、抗生物質を処方する(感染症対策)

4)広範囲に寄生されている場合は、麻酔をかけて手術で取り除く

ウサギの場合は、抗生物質だけでなく痛み止めも処方しろ、とMediRabbit.comでは書いています。

よほど酷い場合でない限りは無麻酔での処置になるので、長時間押さえつけられて傷を弄られるのはウサギにとって相当ストレスのはず。ハンストの恐れもあるので、強制給餌の準備をしておいた方が良いと思います。

4)予防

幼虫の駆除自体は獣医さんでやってもらえますが、実は、ハエとの闘いはここから始まります

HRSのMLで議論されていたのも、この部分が非常に大変だからなのですが……

ハエの卵はせいぜい1mm程度。これが、家の中のどこに産みつけられているかわからないので、獣医師にお願いすれば幼虫は取り除けるのですが、ハエの駆除はまた別の問題だ、ということです……。

都市部で新しいマンションなどに住んでいる方はあまり難しくないかもしれませんが、野生動物や家畜の多い地方の古い家屋などで、隙間からハエが外部から簡単に侵入できるような場合は、症状が完治するまで、蚊帳でも吊ってウサギを徹底的にハエから守る必要があるかもしれません。

勿論、ウサギのお尻や傷の部分、ケージが不潔というのは、ハエをおびき寄せているようなものですので、それは適切な処置をする必要があります。

補足)ウサギヒフバエ属(Cuterebra)について

普段暮らしていてウサギヒフバエを見ることはあまりないのですが、折角調べたので、一応ウサギヒフバエについても記しておきます。

ウサギヒフバエは主にウサギをターゲットとするハエです。ただ、ヒツジバエ科の仲間は、あまり特定の宿主に依存しないので、ウマバエなどの他の属のハエもウサギに寄生します。

ウサギヒフバエが野生のウサギの巣穴や通り道に卵をうみつけ、近付いたウサギの体温に反応してふ化し、口や鼻を通って体内に侵入するのに対し、ウマバエの仲間はやはりウサギの生活する場所に卵を生みますが、ふ化すると傷口から侵入したり、皮膚を貫通して侵入します。

いずれも、侵入した後、体内を移動し(腹腔や気道を通ることもある)、皮膚の下に定着します。

この到達場所は、どうやらハエの種類によって異なる模様で、お腹全体に広がるものもいれば、最終的に首の回りに集まってくるものもいます。
私も野生のウサギでハエウジ症にやられたウサギをみましたが、みな首や胸のあたりにこぶがありました。

この最後の到達場所は、宿主のライフスタイルにも関わっている模様で、ウサギを主な宿主とするウサギヒフバエが犬や猫に寄生すると、迷走して脳まで到達したりもします。

このハエの怖いところは、宿主の正常な組織を食べながら移動することです。更に、ヒツジバエの仲間は、別のハエを中間宿主とすることがあります。

気分が悪くならない自信のある方は、ヒツジバエ科のリンクを見ていただければ、「ハエというより、ハチやアブに近い形だナ」と思うのではないかと思います。

当然、これだけわかりやすければ動物も気づくわけで、元気な動物はこれらが来たら追い払います。そうさせないために、別のもっと小さなハエを中間宿主にするわけです。

(雌のヒツジバエが自分より小さなハエをとらえて、羽の下の体表とかに卵を産みつけるらしい。その卵つきのハエが哺乳類の近くに行くと、動物の体温と湿度でふ化して動物の体に着地。あとは動物が舐めて飲み込むのを待つか、種によっては自力で皮膚に穴をあけて潜り込む。)

というわけで、「ハエなら刺さないからいいや〜」と家の中のハエを放っておいてはダメで、たとえ1匹のイエバエでも家の外に出てもらわないといけないのです。

とくに、お尻がよごれて、気づいたらウンチの下の正常な皮膚まで蛆に食われて穴があいていた、というような場合、これら中間宿主のハエがおしりにたかった結果かもしれません。

糞尿にたかるハエが健康なウサギにたかるケースはあまりありませんが、このような中間宿主のハエを経由してヒツジバエの仲間が入り込んだ場合は事情が変わります。
健康なウサギもヒツジバエには寄生されますので、注意が必要です。

補足)参考リンク

参考にしたリンクなど。リンク先にはハエやハエウジ症に侵されたウサギの写真などもありますので、ご注意下さい。

http://www.medicanimal.com/Rabbits/Parasite-Protection/The-symptoms,-treatment-and-prevention-of-fly-strike-in-rabbits/a/ART111555

http://www.merckvetmanual.com/mvm/integumentary_system/cuterebra_infestation_in_small_animals/overview_of_cuterebra_infestation_in_small_animals.html

http://www.medirabbit.com/EN/Skin_diseases/Parasitic/Cuterebra/Miyasis_botfly.htm

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