ろす太がこちらの時間で2007年7月26日(木曜日)の午前に向こう側に行ってから、色々あった。
もぐらが電話をかけてくれた先にはハウスラビットソサイエティもあって、木曜のうちに7月29日(土曜日)午後3時30分にアダプションをする段取りをつけていた。
その晩食べたご飯は、その日のお弁当で、ずっとほっぽって置いたのでもう糸が出ていた。
いつもろす太と一緒に食べていた場所では食べれず、祭壇のあるお嬢さんたちのテリトリーでお嬢さんと別に冷蔵庫にあったものを見繕って食べる。
それから何をやっただろう……覚えていないけれど、その日からリビングのベッドソファで寝ている。
もぐらは次の日の金曜日ちゃんと仕事に行った。
仔牛は行かなかった。
声を出そうとすると涙が出てきて、ろす太の居た部屋から離れたくなかった。
金曜日から、今までずっとおざなりにしてきたこのサイトのデザインをちまちまと直し続けた。
ああ、そうだ。木曜日には、整体の先生にも電話した。
麻酔がどんなものなのか聞きたくて。
それで、もぐらも仔牛も左側の肋骨、これを右手で辿っていって痛いところがあるからそこをじっと愉気しなさい。抜ける方向が違うだろうから、そこを辿って辿って愉気を続けていくとふっと思い浮かぶ事があるから、そうしたら、それをしなさい、と言われた。
そう、もぐらの手は冷たかったけれど、仔牛の手はずっと温かかった。
肋骨を探っていくと、確かにハの字の曲がっているところ辺りが痛かった。
何年か前に、季節の鬱になった時、そういうところで呼吸をするとボロボロと泣けてきたので、その日も肋骨のそこで息をしたらそうやって泣けてきて、楽になるのかしら、と思ったけれど、泣かなかった。
ただ掌がずっと温かかった。
金曜の夕方、もぐらから外に出てきなさい、と電話があった。
ハリー・ポッターの不死鳥がやっているからそれでも見に行こう、と。
仔牛は悲しいとき、そうやって人がせっかく呼び掛けてくれても、全部そういうのを無視していつまでも覗き込む。ずっとずっと覗き込んで、側にいて、そうゆう痛かったり悲しかったりするもの一つ残らず抱えられるだけ抱えて、ずるずると這って進んで光のあたる場所にまで出て行けたら、その痛かったり悲しかったりするものが光に融けて行くから、そこまでは、一つ残らず自分にひっつけて持って行こうとする。
運ぶのに、人の手はいらない。
自分の体に縛り付けて運ばなければ、意味が無い。
自分が楽になるとか、そんなのも別に必要ない。
自虐だとか、自己満足だとか、色々多分分かっている(つもり)だけれど、根っこの部分で自分の流儀を貫くことに頑固な仔牛は、こういうとき、平気で人の好意を無視する。
けれど、去年の冬、同じようにしてスミソニアン行きを断ってもの凄くもぐらを傷つけてしまったから、同じ過ちは繰り返したくなかった。
だから、車で迎えに行く約束をした。
それでも家を離れずに、ぐずぐずとしていたら、担当医のポールから仔牛の携帯に電話があった。
解剖の結果だと思われた。
そのまま仔牛が聞いても良かったけれど、きっともぐらの方が仔牛より適切な質問をしてくれる、仔牛が聞いて曖昧な事をもぐらに伝えるよりいい、と思ってポールにもぐらの机の電話を伝える。
そして、またずっと痛い頭痛を無視してこのホームページを弄る。
早く完成させて、ろす太の事をいっぱいたくさん書きたい、というその思いで作る。
それから暫くして、もぐらから電話があった。
ポールと話した後には電話があるだろう、それから家を出よう、と思っていた。
その電話だった。
ろす太の肺にはバブルがあった、と言われたそうだ。
あと、尿道と精子をつくるところに傷があった。
石なのか、エンセファリトゾーンなのか、定かではないけれど。
それと、尿の蛋白の量が通常の4倍。
これ以上の詳しいことは、3週間後くらいになってみないと分からない、との事。
こういう、飛び石状の事実が、一体どういう事に線として繋がるのか、まだ全然分からない。
ハリー・ポッターでは無く、ろす太の灰を入れて上げられるかわいい骨壷を探しに行こう、ともぐらに言われて、ようやく腰が動いた。
西のショッピング・モールに行って、これまで覗いた事のないお店を見て回る。
なかなか、これ、というお店にも当たらず、フードコートに行って、軽く食事を取った。
ご飯を食べながら、もぐらは泣いた。
ご飯を食べると、最期に食べさせてやれなかったろす太の事を思って辛い、と泣いた。
私も泣いた。
もぐらがかわいそうで、痛い思いをしているもぐらがかわいそうで。
もぐらと悲しい事は相性が悪い。
私にはもぐらのかなしさを整体のように昇華させあげられない。
映画を見に行こうよ、と言う。
大急ぎで帰って、その帰り道、ポイントシネマの看板で、スパイダーマン3とファンタジック4の続きが上映されている。
こちらにしようかとも案が出たのだけれど、時間が間に合わず、10時の回があった魔法使いへ。
この後だったのかな、もぐらがセンチュリーに行ってバナナを買う、と言った時、嬉しかった。
ろす太にお供えするためにバナナを、って言ってくれたとき、仔牛もろす太にバナナやさくらんぼをあげたくて、でもそんな目に付くことをやったらもぐらをまた悲しませるかと思って、恐くて言えなかったから嬉しかった。
もぐらはきちんと祭壇を作ってくれていて、それは三段BOXのてっぺんで、お嬢さんたちのテリトリーにある。
とても綺麗で、もぐらの心づくしが詰まっていて、そこでちゃんとお水とろす太にペレットも上げられるようになっている。
でも、仔牛はそこじゃなくて、いつもろす太にご飯をあげていたところにお水もペレットも置いてあげたかった。同じ場所にセッティングしたら、もぐらは辛いよね、と思ったけれど、やってしまった。
もぐらは何も言わなかった。ありがとう、と思った。
土曜の朝、起きてぼうっとろす太が居た場所に座り込みながら歯を磨いていたら、ソファーベッドの下、体調のいい時には遊んでいた、悪いときにはその中で隠れるようにうずくまっていた紙芯で出来た硬いトンネルの側に、二粒、ペレットが落ちていた。
一瞬、ふわっと、心が沸いた。
ろす太が食べに来たのかな、と。
もちろん、きっと掃除の時に拾い忘れたのだろうと、そう思ったけれど、ご飯とお水をいつもの場所に戻してあげた後の出来事だったから、とても嬉しかった。
ろす太が派手にご飯茶碗をひっくり返して、少なくなった茶碗の中のご飯を食べつくした後、ふんふんと床にちらばったペレットを探してあるく姿が鮮やかに蘇った。
土曜は、起きてからすぐに買い物にでた。
前の晩、センチュリーに寄った後、既に閉じていたアイリッシュ・グロースリーでなかなか合格点に思われる陶器の入れ物を見つけたからだ。
一番最初にそこを訪れて、他にもあるかもしれないと、ヒルデール・モールの中を歩く。
他には、果物がたくさん描いてある陶磁器のシュガーポットも見つけたけれど、結局アイリッシュのお店で見つけた、クローバーが小さく一束ずつ描いてあるポットに決めた。
合わせて、ミルク・ポットを生け花用に、大きなティーカップを自分たちように、ろす太とお揃い、という事で買って帰った。
ヒルデール・モールの中にいつの間にか新しく出来ていた映画館の前にあるゆったりとしたカフェでコーヒーとパニーニを食べて、同じモールの中にある園芸品店に行ったら、もう閉まっていた。
もう一度ウェストまで足を伸ばして、いちご用のポットやバラ用の椰子の植木鉢、土を揃える。
そして、今度はもぐらがさっとお蕎麦を作ってくれて、スパイダーマンを見に行った。
その晩だった。
朝まで、もぐらが呟きをここに残したのは。
それを読んで、仔牛の文章は人に読ませるべきものでは無いのだろうけれど、やっと書きたいと思っていた事を書いた。
朝の10時に寝て、三時には起きてアダプションの準備をしなくては、とお譲さんたちに朝ごはんをあげてから眠る。
と、電話がかかってきた。
病院から?!
と思ってあわてて出ると、ミキさんからだった。
今年で78歳。
戦前は樺太で生活。戦後、アメリカ兵と結婚してアメリカに来られた。
私がお世話になった語学学校の経営者夫婦の旦那様方のお母さん。
以前お話ししてもらった時に、犬と生活をされていたと聞いていたので、ろす太の埋葬になにかお話を聞けるかもしれない、と思って、木曜に電話をしていた。
そのミキさんからの電話だった。
お昼に会わない?というお誘いの電話で、書くのも恥ずかしいけれど、いやだな、出たくないな、と思った。
もぐらに自分の時間を割くのは全然構わないけれど、それ以外の人に付き合うのはいやだな、と。
けれど、ミキさんが心配して下さっているのは分かっているし、自分の方からお電話したのだし、と言い聞かせて、昼にメイシーの付近で会う約束をする。
シャワーを浴びて、もぐらが起きてきたので、一緒に言ってもらえないかお願いする。
もぐらを一匹でお嬢さんたちと一緒にこの部屋に置いていくのはいやだったから。
かくして、のろのろと着替えて、待ち合わせの場所に少し遅れて行くと、ミキさんは自分の車に私たち二匹を連れて今までしらなかった、けれどとても近所にあったご飯屋さんに連れて行ってくれた。
そこで、待ち合わせの場所で、「プレゼントがあるの」とにこっと笑って言われていた、そのプレゼントを渡された。
最初に、駐車場で言われた時には、「シソの葉っぱかな?」なんて思っていたけれど、それは、箱だった。
それが何なのか、まったくなんのヒントも思い浮かばず、包みを破ると、箱の側面から中身の写真が見えた。
ありえない。
その写真は、昨日ろす太の為の品々を探していたときに見た、まっしろな陶器の体に小さなパステルカラーの花と葉っぱを飾った掌に乗る、首をかしげたうさぎの置物。
もぐらが一目でかわいい、と言い、ろし太の体に花を飾れなかった仔牛がぐっときた置物。
でも、高くて、とてももぐら一人の経済に頼って暮らしている自分たちには気軽に連れて帰るなんてことは出来ない値段。
その写真が付いている。
ということは、その子に違いないわけで……。
隣に座っていたもぐらに、箱を押しやる。
ミキさんが、にかっと笑って、大き目のバッグに被せられていたオレンジ色のタオルを剥いだ。
その下には、陶器の白い犬が居た。
「目が似てたのよ。触れるといいでしょ? 茶色のうさぎだって聞いたけれど、白い部分もあるって聞いたから。小さいしね、どこにでもつれていけるでしょ?」
もう、自分が至らない人間だと、鮮やかにけれどあたたかく照らし出されて、彼女の人生の先輩としての大らかな優しさがありがたくて、そのこちらの側にそったおもいやりや、こんな偶然があるのか、という、気持ち、掌サイズのぜんぜん大きさの違う体なのに、額を撫でるとその微妙な角度と、やっとろす太の額を撫でられた、という安心感で涙が出た。
ミキさんと別れた後、土曜日にもぐらにおねだりしたロケット型ペンダントを探してまたアイリッシュ店へ。メイシーの中へ、と彷徨う。
けれど、ミキさんの言葉どおり、今ははやらないのか、なかなか見つからない。
アダプションの時間は午後三時。
また出直して……、でも、後ろ髪が引かれる。
そしたら、なんと、見つかってしまった……。
小さな本方のスターリングシルバー製。
仔牛はあまりこういった事に詳しくないけれど、14ドル。
もぐらにも、と二つ探したけれど、一つしかなくて、でも、買うことに決めた。
そうしたら、ハート型の、けれど表面の細工とスワロフスキーのロケットでもいいかも、といいだしもぐらに(それはむしろえせるさんに似合うような感じ)、えいやっ! とレジに向かったら、メンバーズ(年会費無料)のお知らせを頂いて、覚悟していた値段の半額くらいに収まった。
15分遅れで、アダプションの予約を入れていたジョージの家へ。
最初に連れてこられたうさぎは、もぐらと写真を見てろす太と同じドワーフだし、と狙っていた2匹のうちの一匹。
ちょっとろす太より大分耳が小さくて、違うかも……と思っていたら、えせるに怯えっぱなし。
えせるはろす太にだけは娘さんらしい柔らかな雰囲気があったから、このビクビク君は、ちょっと違う。
でも、もぐらがかわいいって思ったらどうしよう?
と思い、ぐるぐるとしていたら、暫く静観していたジョージが抱き上げて地下のうさぎ部屋に連れて帰った。
次に連れて来られたのは、モップみたいなアンゴラうさぎ。確かにえせるより体は大きいけれど、アンゴラはちょっと……日本に連れて帰ったら、きっと湯だって死ぬ……というか、クーラー代……とかってますますぐるぐるしていたら、えせるが酷かった……。
仔牛の足元に来て、じっとうずくまっているのに、がしがしとマウンティングをする……。
えせる、容赦がない……。
この子、トラウマになっていなければいいけれど……。
その後に連れて来られたのは、さらに大きいレッキス。
写真で見たときはレッド・スポット、と書いてあったけれど、赤茶のブチ模様のうさぎ。
でかい。
ろす太のあのかわいさを求めていた仔牛は、もう、後はどうやってジョージにお断りの話を切り出そうかとそればかり。
ところが、不思議な事に、このマンゴー、それまでの2匹がすっかりえせるに怯えていたのに、ぜんぜんえせるを恐がらない。
かといって、ムキになってえせるみたいに上下を決めようとするわけではなく、どうやらただ遊んで欲しいだけのもよう。
えせるもなんだか、調子がでない。
えせるが敗北する姿は、それはそれで見たくない気もするけれど、そのうちひとりゲージに残されたプチもジョージに出されて、すっかり三匹での巴戦。
何十分くらい一緒に出されていたのか、顔の表情から、目の感じから、全然ろすと似ていないかったマンゴーが、何故か、だんだんろす太がうちにやってきた、やんちゃなろす太の姿に重なってくる。
後ろ足での耳の掻き方、ごろん、と腹を見せて横になった姿、人の足元に来て頭を撫でさせてくれるシンパシー。
最期にだっこされたマンゴーに腕を伸ばしたもぐらが、マンゴーを抱きながら言った。
「目が、ろすに似ている」
ありえない。
まず、一番最初に仔牛が思ったのは、目が似ていない、だったから。
でも、もぐらの腕からマンゴーを引き取って抱くと、マンゴーは大人しく仔牛の腕に抱かれてくれた。
そのゆだね方が、ろすがじっと仔牛にだかれていてくれているようで、もぐらがろすの結果をジョージに説明している時に、涙ながらに話している声にも泣かなかった仔牛が、ぐしぐし泣いた。
許してるよ、って言われている気がした。ろすに。だから、今は大人しく抱かれてやるよ、って。
だって、ろし太はプライドが高くて、だっこが嫌いだったから。
また、地下のゲージに戻されたマンゴーは、体を長く伸ばして寝そべって、首を立たせてこちらを見上げていた。
その仕草が、ろすに似ていた。
お嬢さんたちを家に戻して、ジョージに教えてもらったペレットを扱っているお店を探検に行く。
その手前にあると思われる、モールで、ペンダントヘッドだけだった仔牛用の革紐も見つかる。
気味が悪いほどなにもかもスムーズ。
そう言ったらもぐらが、
「もしかしたら、ろす太も側に居たいと思ってくれているのかもね。あいつは特別扱いの好きな男だったから」と。
その後、ペレット店もなんなく見つかった。
部屋に戻るのは辛かろうと、また映画を見るつもりだった仔牛に、もぐらがDVDを借りてきて家で見るでもいい、と言ってくれたので、スパイダーマンの1、2を借りてくる。
映画を見る前に、冷蔵庫で黒くなっていたバナナ三本ともぐらが食べたがったイチゴゼリーを作りにかかる。
もぐらは、ろすが最期に食事が出来なかったことであまり台所に立つ気分じゃない。
でも、二人で作った。
仔牛のバナナブレッドは、バターと卵が分離してしまってあまり膨らまなかった。
もぐらのは、一見完璧に出来たと思ったのに、なんと、寒天が固まらなかった。
恐るべしアメリカの牛乳。
一体、どんだけの種類の牛乳があって、どれが日本で飲んでいたような牛乳なんだ?
スパイダーマンは、やってくれたぜソニーめ! という事で、リージョン外しのソフトでも見られず、あの手この手を使って、結局プレビューモードでⅠを鑑賞。
仔牛はこの日、1時間くらいしか眠ってなくて、うとうととしながら見ていたら、もぐらが何かが焦げている、と。
固まらなかったいちごゼリー、もう一度熱したらどうだろう?とストーブに掛けっぱなしだったもぐらの夢のいちごゼリーが黒焦げになっていた……。
部屋中真っ白。
口の中がいがいが。
扇風機を回そうと思ったが、コードがお嬢さんズに齧られていて、うまく回らない。
もうもうと煙が渦巻くなか、映画完走。
寝る前に、もぐらにベッドのことで叱られる。
月曜日、起きたのはお昼で、もぐらはお仕事結局行かなかった。
行けなくしたのは仔牛だと思うのだけれど。
もぐらがメールの返事を書いている時に、仔牛はうさぎと肺のバブルについて知りたくて、色々みていたら、うさぎは麻酔前に絶食しない、という一文にぶつかり、愕然としていた。
だったら、ろすは、お腹すいたよう、とあの朝あんな悲しい思いをしなくても済んだのでは?
お腹空いてて力が入らなかったのでは?
どうして、もっと調べなかったのか?
そんな感じで、もぐらをひきずり込んで話を始めてしまった。
仔牛は、じっとしていると涙は出ないけれど、体を動かして止めると、絞られるように涙が出てくる。
もぐらの忠告の後、ソファーベッドに倒れると、涙が出る。
「仔牛は、ろすに何が出来ると思っているの?」
今回無事に生還したとして、もぐらはアダプションでのえせるのアグレッシブさで、去勢したろすがえせるにあんな風に威張り散らされたら、もっと気鬱になるのではないか、そうしたら、食べることにも興味がない、女の子にも振られる、これでろすの楽しみは何か、どうやって自分達はろすに楽しい思いをさせてやれるのか、そう聞いてきた。
ここが、私の業の深いところで、私は、基本的に、「生きてさえいれば」と、はた迷惑なゴリ押しをしてしまう傾向にある。
最期の最期まで分からないではないか、と。
24時間幸せでなくとも、1分でも、一瞬でも嬉しい事があったら、それで生きている価値はある、と思ってしまう。
仔牛は、いみじくももぐらがこの時言った様に、嵐があったらそれを避けるように努力をするのではなく、じっとうずくまってそれが通過するまで待ってしまう。
それは、仔牛の流儀で時にずるさでもあるけれど、ろすにそれをしろ、とは言えない。
けれど、仔牛と居たら、ろすはそういう生き方を強制される。
幸せにしてやりたいと思うけれど、それはいつも、自分の思う幸せの在り方に沿わせる場合が多くて、なかなかその人の感じる幸せに近付いて提供するには至らない。
人間ってそんな生き物だ、とも思うけれど。
ほら、これが幸せだろ?
美しいものだろ?
凄いだろ?
そうやって、自分の思いを精一杯叫ぶけれど、相手の目を通してそれらの光景を見ることは一生適わない生き物なんだろう。
それでも、今回のミキさんのように、鮮やかに相手の懐に切り込めるやさしさがある。
やっぱりまだたくさんろすの名前を呼ぶ。
ろすにとっては迷惑な話だ。
でも、いつか、ろすと一緒に光の下に立ちたい。
日曜日、アダプションに行く前に、いつもはお留守番お願いね、といっているろすに、
「一緒にくる? 来てもいいよ?」
と言ってみた。
閉めた玄関の扉の下から、さあっとろすが滑り出てきた感じがした。
そして、ジョージの家から帰り、もぐらが
「ろすが乗り移ったかも」
と言った。
色々ろすが物色して、折り合いが付いたマンゴーにすっと溶け込んだのかもしれない。
気が付かなかったけれど、肺が辛かったろすが、健康な体に取り替えたのかもしれない。
マンゴーとろす太、協議の結果、ふたりで仲良く同居してくれる事にしたのかもしれない。
あの日、マンゴーがろすに似ていると思って帰ってきてから、部屋にあったろすの気配が薄くなってしまった。
次にマンゴーに会うのは、8月9日夜の七時半から。
お嬢さんたちのとの相性をさらに調べてみる。