一週間

先週の明日、がろす太を逝かせてしまった日。

キャピタル・スクエアではこの時期の毎水曜日にはチェバー・オーケストラの無料コンサートがある。

先週も場所を取ってここで音楽を聴いた。

もう、二週間くらい経ってしまった気がする。

けれど、まだ先週の明日。

昨日の晩、ようやくもぐらお手製の写真立てと、買って来たペンダントトップに写真を入れる。

どの写真にしようか迷った。

何年も前の写真だと、今のろすと少し遠い気がした。

もぐらは、アパートの中庭で撮影した芝生の上に立って遠くを見ているろすの写真がいいよ、と言った。

最初にそれをピックアップした時、草の中にいるろす太の写真が欲しかったのだけれど、どれもどこか悲しそうで、その写真も悲しそうに遠くを見ているように見えて、どうしようか迷った。

けれど、いざ仕立ててみると、目はまだ少し悲しそうだけれど、なかなか決まっている。

かっこいいぞ、ろす太!

先週の明日の朝、仔牛ももぐらもろす太とさよならするなんてこれっぽっちも考えてなかった。

ろす太だって考えてなかった。

このおうちに帰って来て、もう二度とご飯を食べないなんて絶対に考えてなかった。

先週の今日、もぐらと仔牛は大喜びでオーケストラの音楽を聴いていた。

もうこのコンサートも来週で終わりだね、寂しいね、と話したけれど、こんな寂しい事が起こるなんて考えてもいなかった。

今仔牛の頭の中で、勝手に記憶がろす太の事を消そうとしている。

どんどんとろす太の姿を音も無く消しゴムで白く消してしまうように、一週間前までここでいっしょに生活していたろすの姿を消そうとしている。

ろすの居ないお嬢さんズの柵の向こう。

そこには最初からろすが居なかったみたいに見せる。

だから、必死でろすの姿を探す。

だって、一週間前の事なんだよ?

なのに、脳味噌の中には何にもない映像ばかりがどんどん蓄積されていく。

こんなのってない。

こんなのってひどい。

こわい。

まだ病院からはなんの連絡もこない。

あと二週間は待たないと、なんでこんな事になったのかもこれ以上わからない。

息苦しい。

覚悟する時間がなかった。

覚悟を決めてろすにバイバイを言う勇気もない。

こういうのは、情が深いって言うんじゃないと思う。

もぐらの方がよほど情が深い。

昨日、写真を見て愕然としたけれど、おかげでたくさんのろすに会えた。

おかげで、あの最期にろすと目を合わせた、情けない心もとない想いを全身で表して、ぷらんと抱かれていた顔のろすじゃない顔もあったんだと、思い出した。

明日が来る。

暢気に病院から成功の電話を待っていた明日が来る。

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